マリナさんと翌日の朝合流し、この日は高齢者や子供たちが働きにくるという鉱山へと連れて行ってもらう。入口で警備のおじちゃんに10ボリビアーノ(130円)をそっと渡すと、何気なく中へ入れてもらえた。
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鉱山の入口まで20分ほど傾斜を登る。その途中マリナさんが、この鉱山で一番の高齢者に会わせたいといい、丘の上で黙々と働く一人のおばあさんのところへ連れて行ってくれた。
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丘の上で働いていたおばあちゃん。齢72歳。この炭鉱で40年も働いているという。
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とても静かな眼をしている方だ、と思った。
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学校へは行っていないのでケチュア語しか話せない、とマリナさんが教えてくれた。通訳をしてもらいながら世間話をしている間も、おばあさんは重そうな金槌を手首で振り下ろし、石を砕き、鉱物らしきものを木の籠へ放り投げていた。
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「女性は炭鉱の中で働くことは禁じられているの。それは昔から鉱山が男の働く場所で、女性が入ると不運が続き、鉱物が取れなくなると信じられてきたからなの。」マリナさんはおばあさんを見つめながら、そう教えてくれた。
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会話の途中、「炭鉱で働くのはつらくはないでしょうか?」という言葉が喉まで出掛かったが、すぐに飲み込んでやめた。浅はかな質問だ、と思って自分を恥じた。人は当たりまえのことを、あえて聞いてみたくなる瞬間がある。でも時にそれは不見識で、失礼にあたるということをぼくは知っているつもりだったのだが。
マリナさんとおばあさんが、ケチュア語で会話をしている間、ぼくが自分の中でそんなつまらない問答をしていると、おばあさんは、その静謐な眼でぼくを覘き、 まるで心を読んだかのようにこう呟いた。「労働は力よりも慣れ。もうわたしはここで働くのが長いから体が慣れてるわ。休み休みだけど、体が動くまで働こうと思う。死んだ夫のところへいけるまでここで働きたい。」と。
ぼくたちはおばあさんと握手をして別れを告げた。その手は、女性の手とは思えないほど固く、酷使され、長い年月による労働の堆積が読めてとれた。
つづく
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