ベネズエラとブラジルの国境、サンタ・エレナ・デ・ウアイレン。ブラジル入国の為にここの領事館でビザを取得するため2日ほど滞在した。ブラジル入国は南米を旅する日本人、カナダ人、アメリカ人、オーストラリア人のみなさんにとって結構しんどいものがある。ビザの値段が高いうえに、ビザを取得するために往復の航空券が必要な場合があり、さらにそこの領事の気分で発行の許可の行方が決まってしまう。現にぼくの横にいた坊主のアメリカ人女性は、パスポートの写真がドレッドヘアーで今と全然違うので、したがってとっても疑わしいのであなたダメ、と入国を拒否されていた。極めてアンラッキーである。その横にいた日本人の坊主(ぼく)は、日本語のサインの字がきたないといちゃもんつけられ、日本人にいわれるならまだしも、ブラジル人にいわれて余計なお世話だと内心憤慨していた。結局ビザはもらえたのだが。
ここサンタ・エレナのブラジル領事館で、デミアンという不思議なブルガリア人に出会った。髪の毛もボサボサで、鼻のてっぺんと頬っぺたから毛が生えていて手塚治虫の漫画に出てきそうな風貌の男だった。おや、これは人物だ、と思った。最初は何人かわからないので英語で話しかけてみるが通じず、スペイン語も駄目だったので、ポルトガル語の知っている言葉で話しかけてみたら目がギョロっと反応をみせた。ぼくのネズミのような拙いポルトガル語でなんとか会話を交わしていると、どうやら彼はブルガリアのフォークロリック(民謡音楽)の音楽家らしい。彼の奥さんはブルガリアのプロのチェロイストで、ブラジルのマナウスのオーケストラに2年間招待され、彼と息子と三人でブラジルに来ているようだ。そしてここにはビザの延長の為に彼一人マナウスから訪れているとか。
思えば彼との仲良くなった最初の会話も音楽を通してだった。
デミアン 「ジュンは音楽・・ナニが好き?」
ぼく 「ブルース、ロックが好き」
デミアン 「ぼくロック・・ツェぺリンがとても好き。ジュン・・ツェぺリンは?」
ぼく 「ハウスオブザホーリー・・・ダイアーメイカー」
彼はニコッと鋭い目をさらに細めて、わかってるじゃないといった様子で握手を求めてきた。
デミアンはぼくが今まで会ったことのない不思議な人間と思わせたのは彼の時間に対する感覚だった。15分ほど歩けば着くところを一時間はかかると思い込んでいたり、次の朝の9時に一緒に領事館へビザを取りに行こうと約束したら、朝の4時半にぼくの部屋に来て、早くしないと遅刻してしまうとソワソワしてい た。それに彼の左腕の時計もてんでデタラメな時間で、その時計壊れているの?と聞くと、これブルガリアの恋しい時間だよ、と不思議な事を言 う。色々と話しながら事情を聞いていると、どうやら彼は時間というものがサッパリ苦手らしい。1分といわれても1時間といわれてもそれがどれくらいの長さなのかわからず、 時間をみるのが嫌で、時計を持ち歩くだけで体調を崩してしまうらしい。旅の間は、マナウスにいる奥さんに強制的に時計を持たされているようだが、途中気が滅入ってしまい、それならばと愛するブルガリアの時間に変えてしまったようだ。 時間が駄目だという人には生まれて はじめて会ったが、彼のような人のことをクロノ・フォービアとでもいうのだろうか。
夜はバーで、音楽とブルガリアの話を肴にビールを飲んだ。
もちろん、時間など気にする由もなく。
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